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「ザ・クロマニヨンズ」福岡公演ライブリポート/2025.11.16 @Zepp Fukuoka

福岡ソフトバンクホークスの本拠地である「みずほPayPayドーム福岡」を間近にのぞむ、Zepp Fukuokaの入場口前の通路は、あらゆる年代の人たち・・・ベタに言えば老若男女が長蛇の列をなしていた。パッと見、あきらかにアイドルのコンサートではないけれど、かといって往年のファンだけが集うようなライブでもない・・・

僕はその行列を見て、現在の「ザ・クロマニヨンズ」、甲本ヒロトと真島昌利という存在とは何なのだ・・そんなことを考えながら、その列の最後尾にならんだ。

1988年4月1日だった。僕は地元である福岡県大牟田市の「大牟田文化会館」に「ザ・ブルーハーツ」のライブを友人と観に行って「甲本ヒロト」を目の当たりにした。その強烈すぎるメッセージとパフォーマンスは、人口15万人程度の小さな町で素朴に過ごしていた18歳には、あまりにも強烈かつ衝撃で、受け止めきれないほどのショックを受けたのを覚えている。

そして2025年11月16日。37年7ヶ月ぶりに「ザ・クロマニヨンズ」として甲本ヒロトと真島昌利の単独パフォーマンスを観ることになった。37年の間に僕は進学し、就職し、結婚し、子供を授かり、独立起業し、子供が成人し就職した。そしてハードロック、ヘヴィーメタル、ブリティッシュロックからグランジ、ミクスチャーにビッグ・ビート他、何でも聴きまくり、ファッションも、流行と嗜好で比較的コロコロ変わった。サラリーマン時代は勤務先が広告代理店だったこともありミーハー街道を突っ走っていた。つまり、僕は時代に流され、流行に翻弄されて生きてきた。自己嫌悪になるくらいに。

しかし、その間も「甲本ヒロト」という存在は、ずっと変わらなかった。「ザ・ハイロウズ」から今の「ザ・クロマニヨンズ」に移り変わっても、その言葉も、歌声も、風貌さえも、18歳の僕が衝撃を受けて憧れたそのままに、ずっと僕のロックと青春の象徴として君臨してきたのだ。

そんな存在だったにもかかわらず、僕は37年間一度も彼らのライブに行かなかった。

仕事と家庭で時間が無かったというのは言い訳で、実は、何もブレないで存在してきた「甲本ヒロト」を目の当たりにすることは、自分の(ブレちらかした)生き方を、自ら否定するような気分になってしまう・・そんな恐怖があったのかもしれない。しかしこの日、僕は意を決して、ついに「ザ・クロマニヨンズ」の「JAMBO JAPAN 2025-2026」の福岡公演にやってきたのだった。

超満員。

私の席は2階の指定エリアだったが、1階のスタンディングフロアは人の頭でびっしりと埋まっていた。開演前の時間「ヒロトぉ」という野太い声が飛んだかと思えば、「マーシー!」という黄色い声が飛ぶ。どんなライブも開演直前の期待が爆発しそうなこの時間帯は独特なものがあるけど、37年ぶりに「彼ら」を観る自分にとっては、自分が何か試されているような過去にない妙な緊張感を、口の中の渇きと共に実感した。

そして定刻。

「ザ・クロマニヨンズ」が全く遅れることなく登場した。ヒロトがニコニコして出てきた。マーシーがクールにアンプの前に行きギターをチューニングし始めた。コビーが2、3度、ベースの弦を試し弾きし、カツジはおもむろにドラムの奥に座った。

まだ何も演奏していないのに、会場の空気はまさに臨界点に達していた。

そして1曲目が叩き込まれた。すでに限界に達していた空気が爆発してZepp Fukuokaの内壁が外に膨らむような衝撃波が会場に広がった。

僕は、1秒で恍惚感に包まれた。

ヒロトの、ヒロトにしかできないあのステップと上半身のヤバい動き。さらには目まぐるしく変わる歪んだ表情から飛び込んでくる、あのガナリ声。横には仁王立ちでギターをかき鳴らすマーシーがいる。少し距離をとって我関せずという雰囲気でコビーがベースを刻む後ろで、イヤでも体が弾む、カツジのドラムが全部を受け止めていた。

「最高だ!たまらん・・最高だ!」

今回のアルバムから、シングル曲「キャブレターにひとしずく」をはじめ、テッパンともいえる選曲でライブは進んでいく中で、ヒロトは何度も「楽しいな〜」「楽しいよな〜」とMCとも独り言ともつかない感じで連発した。そうだ「楽しい」んだ。この時ほど「楽しい」という言葉の意味が鮮明に理解できる瞬間が他にあるか?と思った。

ライブは後半へ。

勢いは全く衰えず、ラストのたたみかけるような展開に、声も枯れるほどに叫び、全てを忘れている自分。その間も「楽しいなー!」と叫ぶヒロト。この瞬間37年という月日が一瞬で巻き戻った。いや、巻き戻ったのではない。紛れも無いこの瞬間に18歳の自分が、この会場にやって来てくれたような感覚になった。何にも自分を否定する必要もなかった。自分が必死に生きてきたここまでの時間も、すべて「ザ・クロマニヨンズ」が受け止めてくれたような気がした。心から来てよかったと思った。こんなに最高な気分になれるのに、37年間ライブを観なかったのは勿体なさすぎた・・そう思ったが、もしかしたらこの間隔が、僕と言う人間にとっては最高だったのだと思うことにした。

そして決めた。

次の「ザ・クロマニヨンズ」のライブも、必ず行く。

 

フォトグラファー:柴田恵理
※写真は「CLUB CITTA」の公演の模様です。

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