それぞれの心地よい居場所で世界を埋め尽くす。止めない思考が生み出す、チャンスの循環。
ジェンダーレスという考え方が当たり前の現代で、こんなことを言うと誤解を受けそうだが、起業家、しかも女性と聞くと「気丈」「勝気」など、なんとなく勝手なイメージを作り上げてしまう。冷静に考えると、性別に関係なく、自身がやりたいことをカタチにしているだけで、そんなイメージを抱くこと自体、なんの意味もないのだが…。
福岡に本社を構える株式会社tsumugの代表、牧田恵里さんもいち女性起業家ではあるものの、注目すべきはそこではない。圧倒的なアイデアと、それを確実に実行に移すバイタリティ。15分から使える時間貸しセルフワークスペースTiNK Desk、空室物件などを活用した専有型マイクロオフィスサービスTiNK Officeなど、TiNKシリーズがポストコロナの時代にあって、画期的だと話題だ。「コロナ禍がTiNKの認知、活用の機会を2、3年は早めてくれた」と牧田さん。ネガティブな側面だけがフォーカスされがちなコロナ禍をビジネスチャンスと捉えるのは、TiNKの特性も関係しているだろう。ただ、牧田さんはそもそもの考え方から常に前を向いている。
物事の良否は捉え方一つ。思考停止することなく、前へ
「13年前、母の会社が金融危機のあおりから5億円の借金を抱え、その返済に私も奔走しました。苦しい経験でしたが、そのとき『自分自身が本気で取り組めることをやっていきたい』と強く思ったんです」。そんな経験もあり、次に牧田さんが選んだのは渡米という道。「サイバーエージェントアメリカでソーシャルゲームの開発に1年ほど携わりました。仕事を通してスキルを磨けたのはもちろんですが、一番の収穫はアメリカと日本との物事の捉え方の違いに触れたこと。母親の会社は結局20億円の借金を作り、倒産してしまったのですが、アメリカでその話をすると、『あなたの母親はすごい!20億円分のチャレンジをしたのだから』とポジティブな評価をいただけました。日本だとマイナスなイメージしか持たれませんよね」と牧田さんは話す。
この考え方の違いを肌で感じたことで、ますます起業への思いを強くし、2015年にtsumugを創業。さらに、アメリカでは会社勤めであっても確定申告は自ら行うのが当たり前だったことも牧田さんの意識を変えた。「日本の場合、正社員であれば、確定申告のことなど考える必要がない。だから、自分が納めた税金がどのように使われているかも考えない。これだと思考が停止してしまうと思ったんです。実際、昔は私もそうでした。だからtsumugでは働き方は選べるようにし、ほとんどのメンバーが会社と業務委託契約を結ぶ形をとっています」。常に思考し続けることは、結果、すべてにおいて好循環を生む。つまり思考停止は絶対に避けなければいけないというわけだ。
周囲への感謝と敬意を忘れないこと
牧田さんは「とある知人の起業家の方が『日本は基本的に変化を恐れる国。だから変わらない。ただ、外的要因や極端な状況変化があれば変わらざるを得ない。そういう意味ではすごいチャンスがやってきた』とコロナ禍を表現したんです。私もそれに同意で、新型コロナウイルスによって困っている人がたくさんいるなら、私たちが提供するサービスでお手伝いできることも比例して多くなる。コロナ禍だからといって八方塞がりではなく、冷静に状況と向き合えば、できることは山のようにあると私は考えています」と説明。
一方で「支えられ、助けてもらっているのは私も同じ」と続ける。「私一人ではなにもできません。tsumugのメンバーはもちろん、周りの人たちに助けられて今の私がある。その環境に感謝して、人に敬意を払うこと。そういった気持ちを忘れず、実行していくことができれば、どんな時代がやってこようとも生き抜くことはできると思っています」。
「支えられている」「助けてもらっている」。最後の牧田さんのこんなひと言は、冒頭で述べた女性起業家に対する勝手なイメージが間違っていたことを改めて教えてくれた。tsumugのメンバーからは「牧田さんはハードシングスにあえて挑戦し、それを楽しんでいるように感じる。それを見ていると、背中を支えてあげないといけないという使命感が芽生えるんですよね」とひと言。関係性の深い人からのそんな言葉が、牧田さんの起業家としての一番の魅力なのかもしれない。
株式会社 tsumug
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