不要なものをちゃんと作ることが付加価値を生む “未体験のかっこいい” を信じたアウトドアの異端
アウトドアブランド「muraco」。スタイリッシュな黒のテントなどデザイン性が注目されがちだが、0.01 の誤差が品質を左右する金属加工の工場から生まれたブランドだけに、高い技術力が細部に見て取れる。実際、2016年、最初にリリースしたタープポールはそのクオリティの高さから業界をざわつかせたほど。それから5年、着実に認知を広め、全国に取り扱い店舗を拡大。現在約90店舗まで増えているというから、日本有数の新鋭アウトドアブランドと言っても過言ではない。そのことを代表の村上卓也さんに伝えたところ、「そんなことは全然ないですよ。売れたという実感もないですし、満足なんて1ミクロンもしていない」とひと言。
ガレージブランドと一括にされないプロの意地
「muraco」の運営母体は創業46年の金属加工会社「株式会社シンワ」だ。創業者は村上さんの父親。村上さんはもともと家業を継ぐつもりは一切なく、大学卒業後、インテリアや広告関係の仕事に就いた。「自分の仕事が会社の利益にどう繫がっているかも見えなかったし、外的要因にも大きく左右される。そんな仕事に一生を捧げることに疑問を抱いたんです。それで、家業を継ぐことに決めました」。
知識や技術がゼロの状態で金属加工の仕事をすることに難しさはなかったのか。「こんなことを言うと語弊があるかもしれませんが、どんな仕事もやり方さえ教えてもらえる環境が整っていれば、だれでもできます。よく専門職を”職人“と表現することもありますが、そんな風にハードルを上げるから後継者不足などが生じる。『専門性はあるけれど、だれでもできる仕事です』って伝え方をしていかないと」村上さん。職人という言葉を美化するな、という村上さんなりの警鐘だろう。
そういった話から、村上さんに合理的なリアリストの側面を垣間見た上で、アウトドア事業に参入した理由を聞いてみた。「僕が家業を継いだとき、売上の9割が一つの仕事に偏っていた。これはリスクでしかない。残り1割を伸ばすためになにかできないか考えたとき、結婚式の引き出物のために作った風鈴の評判が良かったことを思い出したんです。40年以上BtoBでやってきましたが、BtoCでやれることもあるんじゃないかと」。
さらに、「総合アウトドアブランドを目指す」というビジョンを当初から持っていたのも大きい。「目標達成のために、テントやタープもラインナップする必要がありましたが、僕たちに布を裁断したり縫製する技術はない。であれば、そういった技術を持っている会社と提携すれば良いと、俯瞰して考えました。もちろん、協力会社もその道のプロフェッショナルですから、ガレージブランドという枠組みには収まらない。いや、収めたくない」と村上さんは力を込める。そんな思いからブランドに「アウトドアギルド(集合体)」を冠しているというわけだ。
外身のアップデートを重ね普遍の芯をさらに強固に
株式会社シンワもコロナによって少なからず影響を受けた。ただ、アウトドア事業だけは止まることはなかったのだそう。「2019年ぐらいまでは『muraco』に対して社内での理解はほぼなかった。実際、社員からの不満を感じたし、反発も受けました。ただ、コロナ禍でもアウトドア事業だけは受注が絶えず、継続できた。このことで社内でも重要な事業として認められたのかな」と村上さん。さらに「時代によって求められるものが変わるのは当たり前。それにどう対応していくかが大切ですが、芯がブレてはいけない。当社の場合、金属加工が芯にあり、『muraco』は言わば外身です。この外身を変えられる身軽さを持っている人が今後も生き残っていくのではないでしょうか」。
村上さんは今回の取材で「実は新規事業立ち上げ後、鬱っぽい症状にもなりまして。何食わぬ顔していましたが、正直きつかった。ただ僕の場合、時間が解決してくれましたね」と教えてくれた。ネガティブな要素を時間が解決してくれることは確かにある。ただ、そんな状況になったときに、どう立ち回れるかは、強い意思があるか、否かじゃないだろうか。村上さんの強い意思とは「『muraco』を総合アウトドアブランドにする」という目標。なにかを成すときには、そういった確固たる信念は、やはり不可欠だ。
muraco プロダクト
NORM 3P BLACK
¥56,000 inc. tax
LIM SHELL JACKET
¥59,400 inc. tax
NORTHPOLE™ EXTENSION
¥8,900 inc. tax
株式会社シンワ
[ 本社 ] 〒350-1325 埼玉県狭山市根岸649-7