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SAPIENS TALK Vol.07 家本賢太郎(その2/6)「チャリチャリとは何か?」

その1からつづき

 

小柳:「海外のシェアサイクルの事業をすごく研究した」ってプレゼンで言われていましたよね。

家本:世界のシェアモビリティ・シェアサイクルを自分で200以上、アプリなどを入れまくりましたね。すぐにダメになっちゃうアプリとかもたくさんありましたけど。

小柳:200もあるんですね!

家本:最盛期はもっとあったんですよ!で、いろんな仕事やカンファレンスというのにかこつけて出張に行って。アメリカとか行ったら2・3日前から前乗りして、カンファレンスに一日ちょこっと行って、その後またアメリカの中をぐるぐるまわったりして。南米に行ったり、アジア中をまわったりもしましたね。

元々中国に一年の半分ぐらいいる生活をしていた時期があったので、中国でサービスが出たら自転車をひっくり返して「どんな部品を使ってんのかなぁ」とか、そういうことをやってました。

小柳:海外の方がシェアリングモビリティのサービスは圧倒的に進んでいたということですか。

家本:そうなんです。むしろ世界の中で、この当時の「メルチャリ」はほぼ最後発ぐらいなんです。そういう意味でいくと、原型は2011・2012年ぐらいからですが、2016・2017年ぐらいには、既にスマートロック型のものが世界中に生まれ始めていたので、むしろかなり後の方からの参入です。

小柳:シェアリングモビリティの世界って「いつかどんどん出てくるんだろうな」と思いながら見ていたんですけど。家本さんから見て一番参考になったのはどこの国の何というサービスですか。

家本:アメリカの「ライム」というサービスですね。今でもシェアサイクルをすごく大きな規模でやっていらっしゃるんですけど、話を聞きに行ってすごく感激して。そのまま影響されているんですが「自分たちで自転車作ってるよ」って言われたんです。

小柳:自分たちで作られているんですか。

家本:はい。やっぱりシェア用に自転車を設計するようにならなきゃ長続きさせられない、と。確かに他の会社にインタビューをしていると自転車の耐久性が良くなかったりとか、例えば部品を交換するにしても、メンテナンス性が悪かったりとか、実はすごく大変そうだったんですよね。「ライム」の事業を見ていて「実は全部上から下までやっているんだ」という話を聞いて。それが2017年の時だったかと思うんですけど、「自分たちもこれをやらなきゃ」みたいになって。

小柳:じゃあ「メルチャリ」は自分たちで作っていたんですね。

家本:実は「メルチャリ」の最初だけは全然僕たちと違うところに発注をしたんですけど、引き継いだ後からは作っていますね。会場にあるこの自転車は第三世代ぐらいですかね。これは部品が無かった時に作ったので、グリップがぐにゅぐにゅでちょっとダメなやつです。すみませんが、ご迷惑をおかけしています。コロナで部品が手に入らなくて、止むを得ず一回だけこの部品を使ったんですよね。

小柳:どの辺がどう進化するんですか?一番進化しなきゃいけないところはどこなんでしょうか。

家本:一番進化したのはカゴですね。皆さんお気付きでしょうか?もともとカゴは3本のワイヤーだったんですけど「ペットボトルが落ちる」という話があって。これって、この枠で金型を作らなきゃいけないんですよね。もっと言うと昔の「メルチャリ」はカゴがボコボコだったんですよ。金属で作ったのに、なんであんなにボコボコなんだっていうぐらいにボコボコで。で、ステンレスのやつに変えたんですけど、それでも「落ちる」って言われたので、もう一回作り直したりして。あとはサドルをもっと上げ下げしやすいように変えたりとか、もうあらゆるところでアップデートをたくさんしています。

小柳:ずっと利用者の声を集めていらっしゃるんですか。

家本:そうですね。いろんな方に使っていただいている様子を見たり、自分たちも使って「これは変えなきゃな」とか考えながら。

小柳:すごいですね!実は今日会場まで運んでいる時に「チャリチャリの自転車って重いな」と思ったんですが。例えばロードバイクってすごく軽いじゃないですか。それに比べてどんな金属を使っているんだろうって気になって。

家本:これは「ハイテンションスチール」というものを使っていて、金属的に耐久性が長いものなんです。フレームの設計でいくと、7年から10年ぐらいはいけるんですよ。やっぱりちゃんと車体が長続きしてくれるっていうことが重要なので。消耗品はしょうがないんですけど、フレームは頑丈なものにしています。自転車の話をしだしたら他の話にいけないですね。すみません(笑)。

 

街の移動の次の習慣を作る

小柳:「チャリチャリ」は先ほど東京、名古屋に加えて熊本でも始まったとお聞きしましたが、あくまで福岡がマザーシティという話ですよね。これは成り行き上はそうだったかもしれないですけど、結果どうでした?

家本:そもそも「マザーシティ」という単語は和製英語で、しかも僕が勝手に言い出したんですけど(笑)。福岡の方達にこれだけ愛していただいたというのは嬉しいですね。少し前にデータを出したら、101回以上乗って頂いている方が全体の17%だったんです。街の中で「チャリチャリ」を使っていただいている方を拝見したら、その5人か6人に1人がもう既に101回以上使って頂いているっていう状況で。「これだけ愛をいただいたなら、もう一度我々も愛を」と思っています。

小柳:坂の多い長崎だと無理だとか、土地によってはそういう向き不向きもありますよね。

家本:市電が走れるパーミルの範囲だったらいけるんじゃないかと。さすがに坂の上は無理ですけど、色々妄想はしています。

小柳:電動アシスト自転車が出だしたら絶対いけますね!「パワー強」にしたらすごく速いですよね!

家本:日本って電動アシスト自転車の基準が決まっていて、時速24キロでカットしなきゃいけないんですね。それも「踏力」って言って踏んだ力の「1対1」「1対2」って基準が決まっているんですけど、福岡ってもともと町の自転車屋さんで電動アシスト自転車が売られていなかったので、初めて乗る方が結構多くて。実はちょっと日本の基準より落としています。「強」でちょうど日本の「普通」の基準ぐらいになっているんです。という話をして皆さんが「強」にしちゃうとバッテリーが速く減っちゃうんですけどね(汗)。

小柳:なるほど(笑)。「チャリチャリ」を始めてもう少しで5年とのことですが、やって良かったと思うことはありますか。

家本:「やって良かったな」って、ものすごく思っていますね!2018年の2月28日に福岡で始まったんですが、始めて3日目ぐらいに当時のスマートロックが動かなかったりして、僕も倉庫の中で手を真っ黒にしながら自転車を直していました。でも当時使われる方は決して多くはなかったんです。今だからお話し出来ますけど「メルカリ」さんの社内の中でも「やっぱり難しいかもなぁ」とか不穏な雰囲気も漂ったりしていて。

でも僕は「いや、そうじゃない。使える規模に達していないんだ」と。「だから、ポートももっとたくさん増やさなきゃいけないし、自転車もこの規模じゃ出会えないし、安心して乗れない」っていう思いがあったんですよね。2018年はまだこの街にシェアサイクルが全くなかったわけですから、今これだけの方に使って頂けるって、本当にただただ嬉しいですね。

小柳:「街の移動の次の習慣を作る」というのがスローガンですよね。すごく素敵だなって思うんですが、これはどういう思いで作られたんですか。

家本:自分たちがまだ満たされてない、幸せじゃないところって何かな?と考えていて。このスローガンは「メルチャリ」から「チャリチャリ」になる時にゼロから作り直しました。

僕、実はもともとバスや電車などの公共交通機関が大好きだったんですよ。仕事に行くとなったら当たり前のように目の前のバス停からバスに乗って。東京にいる時だったら山手線に乗って地下鉄に乗ってオフィスに向かうという感じで。ダイヤを見ないんですよね。しかも選択肢は基本的になくて。

例えば山手線って20秒ダイヤで動いているんですけど「20秒ダイヤで自分の生活が全部決まって動く事って、本当に幸せなのかな」と。もっと移動の選択肢ってあるんですよね。別に急いでいなかったり、暖かくて外に出るのが気持ち良くて「ちょっと遠回りしたいな」っていう時もあると思うんです。

小柳:なるほど。確かにありますよね!

家本:バス停も駅も、絶対無くならないじゃないですか。だから「当たり前にそこで使えるという状況になるまで、自分たちがやり切らなきゃいけない」という思いが前提にあって。

小柳:その時に初めて習慣になると思われたんですね。「これをやり切ったら人々の生活がどうなる」とか、そういう思いってありますか。

家本:僕が描いているところは、例えば雨が降ったり急いで行かなきゃいけない時は今までの「公共交通機関を使う」という選択肢もある、でも例えば前の日の夜に嫌なことがあって、朝すごくムカムカしているみたいな日も必ずありますよね。そんな日は「風を切って(自転車で)走るのって気持ち良いな」と思うだろうし、そういう選択肢が自分の中にあるという状況を作りたいなと思っています。

事業をずっとやってきて思ったのが、毎日美味しいフランス料理を食べることだけが幸せじゃなくて「自分で選べるということが幸せ」ということです。カツ丼もうどんもお魚も選べる、この選択肢があることが幸せなんですよね。

だ習慣になりきれる状況でないと選んでもらえないから、そういうのを目指していきたいという思いが、僕たちのミッションやビジョンの中に含まれています。

小柳:なるほどですね。僕も今日「チャリチャリ」に乗っていた時に「あのお店開いているかな」と気になって遠回りしたんですけど、そういうことですよね。もし回らなかったら72円で良かったかもしれないんですけど(笑)。歩いていたらやらないし、タクシーでもやらないじゃないですか。

家本:そうですね!自転車だったらちょっと次の角のところを見てみるってことが出来ますからね。

その3へつづく

 

 

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