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SAPIENS TALK Vol.03 濱田博人(前篇)

ブランディングカンパニー「クロマニヨン」が主催するトークライブ「SAPIENS TALK」。

時代を生き抜く「SAPIENS(知性ある者)」たちに、直接問いかけるリアルなトークライブ。コロナ禍でますます世界を狭めてしまいがちな今こそ、ダイレクトな言葉を通して多くの人に刺激ときっかけを発信したいと思っています。よろしくお願いします。

第3回目は、競合ひしめくアパレル業界で新ブランド「AOURE(アウール)」を立ち上げた濱田 博人氏に話を伺いました。

人気アパレルブランド ナノユニバースの代表取締役就任後、約3年で売上220億円から300億円近くまで伸長させて業界内での地位を確立した濱田氏。マッシュスタイルラボの専務でありながら「AOURE(アウール)」を立ち上げた思いや「超競合時代」を勝ち抜くヒントなどに迫りました。

ゲスト:濱田 博人 (株式会社マッシュスタイルラボ 専務取締役、株式会社Barbour partners Japan代表取締社長)

モデレーター:小柳俊郎(株式会社クロマニヨン 代表取締役/CEO)

 

小柳:皆さんこんにちは。今回は9月7日に博多阪急6階にオープンしたメンズアパレルブランド「AOURE(アウール)」を立ち上げたプロデューサーの濱田 博人さんにお越しいただきました。

濱田:よろしくお願いします。

小柳:濱田さん、パッと見ても「THE東京」というオシャレな出で立ちですよね(笑)!でも実は熊本出身だそうで。いつまで熊本にいらっしゃったんですか。

濱田:高校卒業までですね。5,6年しか住んでないのですが、青春時代を過ごしたのが熊本なので、プロフィール上は熊本出身(九州出身)ということにしています。でも自分でも九州っぽいなぁって感じますし、九州の人と話していると「濱田さんの顔って九州っぽいよね」ってすごく言われるんですよ。

 

濱田博人とファッション業界

小柳:ずっとファッション業界にいらっしゃる濱田さんは僕からすると「ミスターファッション」という方なんですが、そもそもファッション業界に身を投じようと思ったのはどういうきっかけだったんですか。

濱田:熊本って、僕らが中高生(昭和50年代)の時はファッションとして本当に有名な街で。例えば日本で初めて「ポールスミス」が売られた街は熊本なんですよね。
「ベイブルック」のオーナー原田さんは5坪のお店で、夫婦で「スタンスミス」を売っていたんですよ。僕はその時のお客さんだったんですけど。
そんな「ブレイズ」の有田さんや「ベイブルック」の原田さんにすごく影響を受けて。当時昭和50年代の中高生が「トレトン」のスニーカーを履いて、海外のデニム履いて、「ラルフローレン」のポロシャツとか着て普通に街を歩くという感じだったんです。

小柳:「熊本=おしゃれな街」ってイメージ、私の中にもありました!

濱田:僕も熊本の中では「オシャレ人間」と自負したまま東京の大学に進学したんですけど。普通に表参道とか行くといっぱいおしゃれな人がいて「やばい、この街は」みたいな感じになったんです。どこかで「田舎から出てきた」というコンプレックスもあったんですよね。最初は「表参道とかでファッションの仕事がしたい」というのが大学生の時の夢だったんですけど波にのまれて。バブル世代で売り手市場だったので、みんな大手企業に決まっていく流れで僕自身も大手不動産会社に内定をいただいたんです。父親も公務員で真面目だったので、周りからも「いい会社に内定をもらったね」と言われていたんですけど、年末ぐらいになってふつふつと「俺このままこの会社に入っていいのかな」という思いが湧いてきて。内定式にも出たんですが、ちゃんとした会社だけどお堅い雰囲気もあって。「俺、このままスーツにネクタイで社会人になるのか…」と考えた時に居ても立ってもいられず、年末年始に実家に帰った時に「やっぱり辞めたい」と親に言ったんです。もちろん「は?」という感じでしたけど。

小柳:そうでしょうね。大手不動産会社「***」に就職するはずだったのに(笑)。

濱田:色々大変だったんですけど、最終的には「計画留年」という形で、わざと単位を落として強制的に卒業できない状況を作り出して、もう1年学校に残りました。

小柳:実行するのってまぁまぁ勇気がいりますよね。

濱田:何年経っても「よく22歳の若造がそんな大それた決断をしたよな」と思います。一歩間違えたら親から勘当されて「授業料も出さない」と言われれば、一部上場企業を蹴ってフリーターになることもあり得たんですよね。「濱田博人 留年」で検索してもらえればその話題がたくさん出てくるので、興味がある方はぜひ検索してみてください。(笑)

小柳:そして留年後、ファッションの会社に入られたんですね。

濱田:あまり大きな会社に入っても波に呑まれる可能性があるので、東京で話題になりかけて少し勢いがあった「サンエーインターナショナル」という会社に1年遅れの新卒で入社をしました。
ボディコンブームを作った「ピンキーアンドダイアン」、「パーリーゲイツ」というゴルフブランド、「ビバユー」というブランドがある会社で、私が中堅になり始めた頃には「ジルスチュアート」や「ケイトスペード」など色々なブランドが出てきましたね。

小柳:今はTSIホールディングスという会社になっているんですよね。
ここから一気に時間が進むんですが、2016年に濱田さんは「ナノユニバース」の代表取締役社長になられたんですよね。アパレル業界で社長に推薦されるには、どういう点で判断されることが多いのでしょうか。

濱田:新しいことに常にチャレンジするということと、失敗しても這い上がったところですかね。どの会社でもそうなんですけど0から1にすることが一番大変なんですよ。レールを引いた後にちゃんとやってくれる優秀な人はいっぱいいるんですけど、0を1にするというのはものすごいパワーが必要です。

何度も失敗して正直干された時期もあるんですけど、チャレンジ精神を持って這い上がって。そういったところを当時のオーナーが見てくれていたんだと思います。

小柳:上の方はちゃんと見てくれていたんですね。

濱田:「ナノユニバース」は、実は2016年に債務超過に陥ったんです。TSIが買収した会社だったんですけど、デベロッパーさんからも「出ていけ」と言われながら、どうやって立て直そうかという程で。非常にいいブランドだったんですけど、創業社長が会社を売ってから経営が雑になってしまって。創業メンバーが離れてしまい苦戦していたところに、TSIホールディングスの取締役で新規事業などを担当していた私に「そこに行け」という話が上がって。

小柳:0から1じゃなくて、まさにマイナスになっているところに行かされたと思うんですが、3年で220億円から300億円近くまで伸ばされたんですよね。3年で80億円も売り上げを伸ばすために何を行ったんですか。

濱田:売り上げは220億あったんですけど、赤字が結構大きくて、借入もかなりの金額になっていたので、お金はなかったんですよ。そんな中売り上げを伸ばすというよりは、ちゃんと利益が出る体質にしなきゃいけないと思い、「デジタル戦略」に力を入れました。セレクトショップと言ってもお店で接客するだけじゃなくて、ちゃんとECで売れるものを開発して稼ぐ力を身につけるということをこの3年間で推進しましたね。ECサイトの改修やアプリ開発を行う中で、店でもECでもそうなんですが、とにかくお客様にとって「ストレスレスな環境」というのを目指しました。世の中ストレスだらけなんですよね。ECで買い物をしようとすると、色やサイズ感が分からない、素材の厚さが分からないとか、そういうことだらけなんですよ。とにかくこの会社にいたときは、1個ずつストレスを解消しようとしていました。

 

あとはアプリで画像が変わる時に読み込みが遅いのも嫌なので、1秒間に5枚くらいスライドできるようにするとか色々試したりして。既定路線でここを使おうというのはなく、小さい会社でも新しい技術を持っているところは現場からの推薦があればどんどん採用しながら0から作りました。僕自身が4年間いた中で一番やって手応えがあったのは、このデジタル戦略でしたね。

小柳:僕もアプリを入れていましたよ。お世辞じゃなくて、アプリで買い始めたのは「ナノユニバース」が初めてでしたね。お店に行ったらポイントが貯まるし、自分が買った物を全てアプリが覚えてくれているし。

濱田:分かりやすく商品をお客様に伝えることが大事だなと思ったんです。「ファッションを売る」って結構難しいじゃないですか。でも、僕自身がやったのは結構シンプルな形で。今も僕、「AOURE(アウール)」は「ファッションを売っている」と思っていなくて。誤解を恐れずに言うと「プロダクトを売っている」という感じなんです。それが別に家電製品だろうがファッションだろうが、何でも僕は一緒だと思うんですよね。その商品があることによって、消費者がどう満足してくれて、それによって生活がどう変わるかということまで考えて物を作らないと今は売れない時代だと思います。

小柳:作り手が「これがいいと思うんだよね」という思いで作っても、絶対売れるというわけではないということですね。

濱田:「イタリアの良い素材を使っていて、すごくいいんだよね。それを買っとけば間違いないよ」と言ってもお客様は買わないんですよね。そうじゃなくて、何がいいかというのをデジタルでちゃんと分かりやすく解説をしたんですよ。この商品があることによって、自分のライフスタイルがどう変わるかということをちゃんと想像させる。僕はよくスタッフに「シーンを意識した服作りをしなさい」と言います。この服を着てどこに行く、この服を着ることによって人からどう思われるかなどを全て考えながら作っています。ですから、完全に僕はファッションというよりは「プロダクト」、「自慢できる製品」として作っています。そこを打ち出すには、実は一番有効なのはもちろん店頭にいる販売スタッフですけど、一部の優秀な販売スタッフを除いては、人の接客にも限界があるんですよ。お客様の時間がなかったり、スタッフが忙しかったりすると説明ができない。でも今はデジタル化が進んでいるので、ちょっと興味があったらすぐに調べることが出来ますよね。ECサイトやネットでその商品について語られていると、それを読んで納得すれば店頭でそれを確かめる、店頭というのは極端な話、確かめる場なんです。販売スタッフは背中を押す立場ですね。自分で全て情報を知り、店舗で確認したら思った通りの商品だった、試着してみてもすごく良くて、もちろんコーデネイト提案も重要ですが、「お似合いですよ」「素敵ですよ」と言ってもらうのが重要で。それを考えるのに一切のストレスを軽減してあげれば、お客様の満足度は高まるのかなと。

小柳:相当な研究と細かい作業、試行錯誤をされたんですね。

濱田:「AOURE(アウール)」ではまだそこまで投資ができないのでやりきれていないんですけど、「ナノユニバース」の時は例えば「いいな」と思ったジャケットの素材が厚いのか薄いのか、透けるのか透けないのか全てネットで見るとチャートになっていたり、どこの店に何の在庫があるかも全て見れるんです。

そして自分が外出している時に、お気に入りに追加した商品が近くの店にあると、プッシュ通知で「あなたがお気に入りに追加した商品がこの店舗に在庫があります」と表示されます。店舗で「これが実物なんだ」と分かれば、そこで買おうが買わまいが私たちにとってはどちらでもいいんですよね。時間がなくてその場で購入しなくても、家に帰ってネットで買うという流れが出来るので。自分の近くのお店に在庫があるかないかさえ分かれば、結構ストレスを減らせるんですよね。

小柳:まさにOMO(Online Merges with Offline=オンラインとオフラインの融合)ですね!

そして濱田さんはその後、2021年の年間売り上げ約900億という、1,000億近い大きな会社「マッシュホールディングス」に入社されたんですよね。

 

時代の変化に呑み込まれたアパレル業界

 

小柳:2020年といえばコロナ禍でしたけど、あるメディアのインタビューで「ファッションアパレル業界は、世の中の状況の急激な変化に呑み込まれた」と語られていましたね。どんな変化にどう呑み込まれたという思いが込められているんでしょうか。

濱田:話し始めると、90年代からになっちゃうので省略しますけど(笑)。
簡単に言うと90年代はモードとかデザイナーズとか、いろんな日本のDCアパレルの創成期だったと思うんですけど、色々なトレンドが出てきてロングスカートが流行ったと思ったら、次の年はミニスカートが流行ったりして毎年のように波がすごかったんです。でも2000年に入るとどちらかというと、ラグジュアリーとファストファッションみたいに二極化して欧米化していったんですね。その中で日本独自の中間層と言われる人たちがみんなファストファッションに流れたので、日本のアパレルが空洞化したんです。
当時私はサンエーインターナショナルにいて「ボディドレッシング」とか「ナチュラルビューティー」といろんなブランドがあったんですが全て淘汰されてしまって。ただコロナを境にまた違う波が起きています。高い服を着るだけがファッションではなくなってきて。安かろう悪かろうというのは所詮消耗品でサスティナブルじゃないと思うんですが、この数年はエコだとかサスティナブルだとか、一つの物を大事にするとか、トレンドに左右されるより自分のスタイルで長く着るといったことに目覚めた人たちが多かったと思うんですよね。非常に簡単な言い方をしますけど、コロナで消費に対する考え方が大きく変わったなと。

小柳:なるほど。コロナをきっかけに変わったのは、消費に対するマインドも含めてということですね。

濱田:例えばイタリア物の20万円もするスーツを着て、インポートシャツを着て、ネクタイをして、5~6万円もする革靴を履いて丸の内の会社に出社していた一流企業の部長や課長もリモートになっちゃうと、ただのデジタル化についていけないおじさんが多いんですよね。若い人たちはリモートワークで、カジュアルなセットアップに「ユニクロ」のTシャツを着てスニーカーを履いて、バッグの中にパソコンを入れてコワーキングスペースで、会社に行かずに「今日リモートします」とパソコンでバンバン会議をして。

おじさんたちは家にいてもやることないから出社するも、会社には誰もいない。このコロナの最中に肩も凝るようなスーツやネクタイをして、会社に行ってかつリモートをしているような状況に意味が分からなくなってきて「自分がだんだん時代についてこれてないんじゃないか」と思い始めて。でも若者みたいなナイロンの黒のセットアップに「ユニクロ」のTシャツは着れない、ネクタイを外したら残念なおじさんになっちゃうという人がすごく増えたなと感じましたね。

小柳:いや〜、辛い現実ですが真実な気がします。そして2020年にマッシュスタイルラボの専務になられたんですよね。「マッシュがメンズに本腰」とニュースにまでなりました。新ブランド「AOURE(アウール)」を作り福岡にも先日オープンをされて、本当に勢いがあってすごいなと思うんですけど、舌の根も乾かぬうちにもう東京大丸店が出来たんですよね。今度はジェイアール名古屋タカシマヤにも出来るんですか。

濱田:そうですね。今年の3月末にデビューして5カ月くらいで東京や大阪以外に福岡にも出店させて頂いたり、10月に名古屋にも出店するということで、自分でも非常にスピード感を感じています。

小柳:ずっとファッションアパレル業界にいらっしゃって、全て見てこられてきたと思うんですけれど、今と昔で変わっているところと変わっていないところって何ですか。

濱田:大きく変わったことと言えば、やはり「いいものは高い。安いものは悪いもの」っていうのが昔でしたが今は「コスパ」が重視されている点でしょうか。コスパとは決して安いということではなくて、値段と物のバランスが合っているということで、ここに対して消費者はすごく敏感ですね。

例えばものすごく有名なレストランが福岡に出来て、一回食べに行って美味しかったとしても3万円もしたら、普通の人はなかなか2回目はないなって。でもすぐ近くにできた小洒落たビストロに行ってみると、思った以上に美味しいしワインも飲んで一人8,000円となれば「ここ使えるね」ってなると思うんですよね。
3万円の店には年に1回、仮に3年間で1回しか行かなかったとしたらその店には3万円しか払われない訳です。でも8,000円の店はすごくよかったから年に5回行ったとすると、3年間で15回 計12万円を使うわけですよね。一方は3万円しか使わない、一方は12万円を使っている、結果的に後者にお金を使っているということを考えるとやはり一般的には「コストパフォーマンス」を求められている度合いが昔と今で一番の大きな違いなのかなと。

昔はおいしいものを食べようと思ったら、それなりの値段を出さなきゃいけませんでした、でも今は情報化社会だから美味しくて安い店は調べれば調べるほどいっぱい出てくるし、自分が信用している人のSNSを見て「この人って本当にいい店知っているよね。しかもリーズナブルで」っていうこともあると思うんです僕もInstagramをやっていて結構ストーリーで食べ物をあげるんですよ。高級店ばっかり行ってるわけじゃなくて、自分でコスパが良いところを探すんですけど、結構反応があるんです。たまに言いたくないからタグ付けしないんですけど、そういう時は大体「それどこのお店ですか」って聞かれますね。何故か地方在住の方が結構フォローしてくれていて。本名も出していないので何をやっている人か分からないと思うんですが、先日もフォロワーさんからメッセージがきて「今度東京へ行くんですけど、おすすめのお店を教えてください」とか、もう食べログ状態なんですよね。(笑)

小柳:面白い世の中ですよね。そんな濱田さんですが、「バブアー」というブランドを日本で取り扱うことになってつい先日そちらの社長にもなられたんですよね。

濱田:はい。これも巡り合わせですかね。

小柳:僕も大好きなブランドなんですけど、一回落ち着いちゃったブランドをもう一度盛り上げるって、またちょっと別の話になってくるのかなと思っていて。今、色々と考えていらっしゃるんですか。

濱田:そうですね。これは本国イギリスといろいろな話し合いを行っています。ワックスドジャケットが非常に有名なんですけど、日本では「バブアー=アウターブランド(ワックスドジャケット)」という印象がつきすぎていて。世界的に見ると「ライフスタイルブランド」として本国はどんどん進化しています。キッズやレディースがあったり、ペット関連といったものを含めたライフスタイル型のブランドに変化していて。でも日本はこのままいくと冬にアウターを売るだけのブランドで進化が出来ないので、もっと老若男女に売れるライフスタイル型のブランドにもう一回リブランドして欲しいということを言われました。以前から代理店さんが作っていたお店については非常にいい店も多かったんですけど、一度全部白紙にしたいということで、僕は「0から1が1番難しい」と言いましたけれど、逆にこの「バブアー」は一回ゼロにすべきだなと思ったんですよね。

小柳:リブランディングって世の中多いじゃないですか。失敗することもあると思いますが、成功の秘訣はありますか。

濱田:未練を残さないことですね。「ナノユニバース」もロゴを変えました。一回壊してやらない限り、途中で絶対に迷路に入っちゃうんですよね。一回ゼロに戻って、迷った時に本当に何をやりたかったのかを思い返して戻れる原点をしっかり作るんです。そういった場所を自分で作らない限り、絶対にまた迷ってしまうので。

小柳:なるほど、原点ですか。これはアパレルだけじゃなくて色々な業界の方にも当てはまると思うんですが、新しいブランドを作るということはどこの会社もみんなやりたいことだし、やらなきゃいけないと思っていることですよね。そう考えた時に絶対外せない要件とこだわるべき要件って何でしょうか。

濱田:これもまた誤解を招くかもしれませんが、ブランドはつくろうと思ってもつくれないです。ブランドは消費者が育ててくれるものであって、「AOURE(アウール)」は残念ながらまだブランドにはなっていないです。「ブランドです」って言うからみんな「あぁそうなんだ」と思うけど、「アウールってブランドだよね」って思っている人は誰もいなくて。新しいブランドをつくるというのはブランドを育てるということと一緒で、何年後かにブランドになっているという感覚ですね。そういう意味では新しいブランドを作るためには、自慢できるプロダクトを作ることだと思うんですよ。

例えばおしゃれなだけのレストランを作りたいと思えば別ですけど、ちゃんとリピーターに来てもらうためのレストランを作りたいと思うんだったら、内装とかブランディングとか、プロモーションよりも先にやらなきゃいけないのは看板商品を作ることなんですよね。

だから質問の「外せない要件とこだわるべき要件」は僕にとってどちらも一緒なんですけど「作った張本人が自慢できるか」ということですね。

小柳:自分が納得するまで凝った結論がこのプロダクトになっていないと自慢できないですもんね。

濱田:僕は「ナノユニバース」の時によく社員に「正月に実家や地元に帰った時に、自分の同級生や家族に自分が自慢できるか」と言っていました。「この服俺が関わったとか俺が作ったとか、俺がPRしたとか自慢できるものを作れ」といつも話して。社員の自慢が一番有効な広告なんですよ。自慢する人が増えれば増えるだけ、俗に言うUGC(User Generated Contents=ユーザー生成コンテンツ)として、共感してくれた人たちが「AOURE(アウール)のこれがいいよ」って言ってくれる。そういうものを作れるかどうかで、ブランドになるかどうかが決まると思うんですよ。欧米のブランド「ルイヴィトン」や「エルメス」も自慢できるものがあったからブランドになったし、逆にファストファッションはそれがないから波に呑まれてしまうと思うんですよね。何か新しいことを始めたり、ブランドをつくるという時、皆さんに共通すると思うんですが、「絶対これは自慢できる」というものを作ることが一歩目だと思いますね。

小柳:世の中には、そんなに凝らずに「こんなのがウケるんじゃないか」というものを出しているところもたくさんあるじゃないですか。

濱田:そこは波に乗れないかもしれないですよね。広告宣伝にお金を使って、名前も露出し、インフルエンサーもいっぱい使っているのに、なんでこのブランドは売れないんだろうと考える前にブランドと言うよりはプロダクトを自慢できるということが大事ですよね。

小柳:今の時代だと、凝りまくったプロダクトは、不思議と消費者にも伝わるんですかね。

濱田:売れる売れない関係なく、自分の趣味や興味のあることをずっとやり続けていたら、それがビジネスになったという話も良く聞きますよね。「お前がやっているそれはすごいことだよ。とんでもないことだよ」と気づいてくれた他人がSNSで発信したら、共感してくれる人がすごく増えて急に火がつくということもありますし。

 

 

後篇・・AOURE篇へつづく

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