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SAPIENS TALK Vol.8 田中 知之(FPM)(5/6)「 オリンピックの裏側」

オリンピックの裏側

 

小柳:そして時は流れてようやく「東京オリンピック」のについてお聞きしていこうと思います。僕、オリンピックの開会式や閉会式の音楽監督って勝手なイメージですけど「題名のない音楽会」に出てくるような交響楽を作れるような音楽家の方がやるものかと思っていたんですよ。

田中:前回の東京オリンピックは「題名のない音楽会」でしばらく司会をされていた黛 敏郎さんが音楽監督でいらっしゃいましたもんね!本来ならば交響楽団をスタジアムに呼んで、オリジナル楽曲を作って生演奏をやるという形式ですけど。「コロナ禍でそれが出来ないから極めて地味な内容になる、7割くらいの楽曲は予算の関係もあって過去のアーカイブから選曲してほしい」と最初から言われて。だからオリジナル楽曲を作るだけじゃなくて過去曲からの選曲なら、僕みたいなオタクのDJでもお引き受けしてもいいのかなと思って。

小柳:冒頭の音楽を担当されていた方が直前で辞任された時は大変だったんじゃないですか。

田中:開会式当日の4日前に組織委員会からオリンピックスタジアムに来るように呼ばれて行ったら、いつもお会いしたことないような偉い方たちが神妙な顔で頭を下げていらっしゃったんですけど、音楽監督である僕に「田中さん、冒頭の5分間の音楽が使えなくなった。何とかしてください。納品まで30時間しかない」って言われて。

みんなで協議してお願いした前任の方もとても素晴らしい楽曲を仕上げてくださっていたんですが、彼の辞任に伴いそれが使えなくなった。もう少し時間があったら、もっと相応しい方に楽曲制作をお願いしたいところだったのですが、30時間でオリンピック開会式の冒頭の5分間の音楽を、しかも既に仕上がっている映像に合わせて作って欲しいなんて依頼は、誰も引き受けてくれるはずもないことは容易に想像できました。となると、監督の僕がやるしかないということになり、後輩の音楽家に協力をしてもらいながら、ホントに30時間で全て作りきりました。

小柳:30時間って、自分に置き換えるとゾッとします・・・田中さんはあの「ピクトグラム」の音楽も作られていましたが、これも話題になりましたね。

田中:これは5月くらいから作っていましたね。演者さんたち、リハーサルでは一回も失敗しなかったんですけど、本番で初めて1箇所だけ失敗するんですよ。僕も何十回とリハーサルを見ていたんですけど、初めての失敗が本番に訪れるんですよね。「これがオリンピックだ」と思いましたね。でもそこからちゃんとリカバーしたのがすごかったですよね!

小柳:僕も観ていました。完全にリカバーされてました!この曲はどうやって作られたんですか。

田中:これは当初から私が音楽を担当することが決まっていたので、演者であるが~まるちょばのヒロポンさんのディレクションの元、演技に音を付けていったんです。ヒロポンさんのこだわりを受け止めて、何度も作り直して出来上がりました。いいものを作ろうとするためのダメ出しは当然あっていいと思っています。でも。クリエイターってどうしても自分の作品にダメ出しされることを抗ったりするもんなんで、自分のプランをわかって欲しくて意見を戦わせたりするのもわかるんです。でも、とりあえず否定も指摘も一旦素直に受け入れた方が結果いいものができることもある。オリンピックでそれを学びましたね。

小柳:オリンピックが全て終わって、もうちょっとこうしたかったとか今思うことはありますか。

田中:言い出したらきりがないですね。でも「終わってよかった、出来てよかった」それだけです。入場行進でゲーム音楽を使うのは僕が出したアイデアだったんですけど。すぎやまこういちさんのドラゴンクエストのテーマのイントロから、各国選手達が入場するシーンは今見ても高揚するし泣けます。あの瞬間だけでも作れてよかったと感動しますね。当時の評価は散々で、今でもいろんな不祥事が起こるたびに僕らまで一緒に叩かれるんですけど、でも結局は式典を開催できてよかったと思ってます。あと一番ありがたかっのが、隈研吾さんが観客席を様々な色に塗り分けてくださっていたことですね!リハーサルの時も無観客のスタジアムに人がちゃんといるように見えて、めちゃくちゃ助かりました。

小柳:上から見ても人がいるように見えますもんね!

田中:スタジアムの音響も素晴らしかったです。客席に向いてスピーカーがフィールドにたくさん設置されているんですけど、音のクオリティが素晴らしくて。これを皆さんに聴かせられなかったのがもったいないなと思いました。

>>その6最終回「センスの純度を磨く」へつづく

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