SAPIENS TALK Vol.8 田中 知之(FPM)(4/6)「 リミックスバブルとオカルト作曲法」
リミックスバブルとオカルト作曲法
小柳:さっき話が出た「リミックス」の話だと、皆さんがよく知っている「セプテンバー」もリミックスされたんですよね。
田中:はい、「アース・ウインド&ファイヤー」の大ヒット曲のリミックスです。実はこれ、コロンビアかどこかのおじさんバンドが自費で作ったレコードをサンプリングして作ったんです。そのサンプリングに、「セプテンバー」のボーカルだけを乗せたら出来上がっちゃったんですよ。
小柳:すごいですね!
田中:これはリミックスの話をもらった時、直ぐにおじさんバンドの謎なラテンのフレーズを思い出して、頭の中でリミックスが出来あがってしまった。実際リミックス作業を始めて1日とかで仕上がりましたね。この時『絶対にJ-WAVEの「TOKIO HOT 100」というラジオ番組のカウントダウンのトップ10にこの楽曲を入れてみせます』なんて偉そうにレコード会社の人に言ったりして。もちろん確証はなかったんですけど、本当に入りました!
小柳:すごい!サンプリングっていろんなやり方があるんですね。
田中:これは日本独自のリミックス企画だったんですけど、アメリカやヨーロッパでも「ブートレグ(著作権者に無断で複製・販売されたレコード)」が作られて出回り、最終的には海外でも正規にリリースされました。みんな多分正規でこれが出てると思っていなくて「勝手にブートレグでFPMっていう日本のやつが作ったものだ」と認識されていたようです。
小柳:鮎川誠さんの「シーナ&ザ・ロケット」の「レモンティー」もリミックスされたんですよね。ご本人に会われたことはあるんですか?
田中:ありますね。鮎川さんは頭が良い方だから「ファンタスティック・プラスチック・マシーンの田中君だよね」って、ちゃんと予め名前を覚えていて、博多訛りですらすらと呼んでくださり嬉しかったですね。余談ですけど今度僕は名古屋にDJに行くんですけど、その時にお嬢さんの陽子さんとDJで共演するんですよ。
小柳:おぉ。。なんか、すごい巡り合わせですね。ちなみに「リミックス」というのは「踊りやすい」ということが重視されるんですか。
田中:どうなんでしょうね。僕が一番最初にリミックス的な作業をやらせてもらったのは、大先輩の「テイ・トウワ」さんが手掛けられた「ビョーク」の「ハイパーバラッド」という名曲のリミックスで、「田中くん、イントロの部分をお手伝いしてくれない?」と言われてちょっとだけトラックを作らせてもらった時でした。 その後もう一度「テイ・トウワ」さんから、今田耕司さんが「KOJI-1200」という名でアーティスト活動をしていた時にリミックスを頼まれました。
その時は元々ダンサブルな「ナウ・ロマンティック」とい楽曲を、ボサノバ風にリミックスしたので、リミックスと言えど「一概にダンスっぽくする」っていうことでは私の場合はないですね。色々なやり方があるので結構自由にやってきました。
小柳:当時はリミックスバブルの様相ですね。
田中:確かにそうでしたね。僕だけじゃなくて当時はDJにたくさんのリミックス依頼がありましたが、今では随分と少なくなりましたね。もちろん今も若手DJにはそういう仕事が回っているかとも思うんですけど、僕らが当時もらっていたリミックスのバジェットは相当恵まれていたように思います。昔は音楽業界自体が潤っていましたからね。
小柳:ちなみに選曲家のお仕事もあると思うんですが、そちらの話も聞かせていただけますか。
田中:クラブやイベント会場での踊らせる選曲だけじゃなくて、例えば店舗の音楽やファッションショーの選曲もやっています。この間初めて映画の選曲の仕事もやらせて頂きました。これは僕が一番やりたかった仕事なんですよね!実はいま映画音楽を作るということも同時にやっていて、ちょうどこの前発表になったんですけど、京都の後輩である千原徹也君というアートディレクターが監督を務める「アイスクリームフィーバー」というが映画あって。吉岡里帆さんが主演のその映画の音楽を作らせてもらっています。
小柳:それは映画のシーンをもらって、それに音楽をつけていくようなお仕事になるんですか。
田中:そうですね。楽曲提供をしたことはあったんですけど、一本丸ごと自分が映画の音楽を作るっていうのは初めてで。僕は映画のサウンドトラック好きから本格的なDJ活動がスタートしているので、本当に嬉しいですね。
小柳:完成が楽しみですね。選曲という点でいくと、僕も持っていますけど「サウンド・コンシェルジュ」という「コンピレーションCD」のシリーズも出されていますよね。
田中:選曲って、結局自分の好きな曲を選ぶというのが基本なんですけど、ちょっと角度を変えることでものすごく手札が増えるというか。そうすると選曲って無限じゃないかなって思うんですよね。実は以前、松任谷由実さんのラジオ番組に出演させていただいた時に「田中くん、今度私春スキーに行くんだけど、その時に聴く音楽を選曲してくれない」って言われて。
小柳:個人的にですか?
田中:はい。そんな嬉しいことないじゃないですか。それで選曲する時に「ユーミンさん」っていう人格で選曲をしたから、自分がいつもなら選ばないような曲がいっぱい選べたんです。
小柳:イタコみたいですね。またオカルトになってしまいますけど。
田中:イタコに近いかもしれないですね。僕、実際に「イタコ作曲法」というのをやっていて。例えば「ポール・マッカートニー」みたいな曲を作りたいなと思ったら彼の作った曲を3日3晩聴くんです。彼は生きているんですけど生霊として降霊させて、自分が「ポール・マッカートニー」になった気持ちで曲を作ります。
小柳:たまらんエピソードですね!面白い!
田中:後で振り返ると、なんで自分がこんな曲を作ったか分からないんですけど。同じように「ジョアン・ジルベルト」もやったし「マーティン・デニー」もやりました。僕が今作ってる次のアルバムには「イタコ作曲法」で作られた曲が何曲か入れる予定です(笑)。やっぱり僕はクリエイティブの元がオカルトなんですよ。皆さんの何の参考にもならないですけど!(笑)
小柳:でも、その「イタコ作曲法」をしながら、「ルイ・ヴィトン」に曲を提供されたりもしていますよね。
田中:はい。村上隆さんが「ルイ・ヴィトン」とコラボレーションした『SUPERFLAT MONOGRAM』というアニメーションの楽曲を作らせてもらいました。2003年と2008年と2度にわたって2曲作りました。いろんな音楽の断片をサンプリングして小さいピースとして切り取って楽曲として作りあげる手法で。この方法だとどの曲からサンプリングしたとかが分からないんです。
小柳:緻密な作業をされているんですね…!「ルイ・ヴィトン・ジャパン」のお仕事じゃなくて世界キャンペーンで使用されたんだから、すごいですよね!そしてこれも昔びっくりしたんですけど「ユニクロック」も田中さんだったんですね。
田中:一時期ちょっとだけバズったんですけど、SNSの駆け出しがアメブロなどで、当時みんなブログばっかり作っていたんですよね。そこに貼り付けるブログパーツで。これがユニクロの広告のような広告じゃないようなインタラクティブなものだったんですよね。
小柳:こんなことするの「ユニクロ」さんしかいなかったですもん!
田中:これを作ったのが児玉裕一さんという日本が誇る映像監督さんなんですけど、ある時、僕のスタジオにいらっしゃって「バジェットはないんですけど、自由にできるプロジェクトです。とりあえず1分間の時計のような楽曲をいくつか作って欲しい」というご依頼を頂いて。映像作家の児玉さんはじめ、スタイリストの「北澤momo」さん、振り付けの「エアーマン」さん、、、最初はこじんまりしたチームでスタートしたように思います。
ユニクロさんも多分「まぁ好きにやればいいじゃん。その代わりお金ないよ」っていうスタンスだったと想像するんですけど、これが徐々にバズって、カンヌライオン始め、世界3大広告大賞全てでグランプリをいただきましたね。
小柳:まさに、大バズりですね!!