SCROLL
-SAPIENS TALK
  • #sapienstalk
  • #家本賢太郎

SAPIENS TALK Vol.07 家本賢太郎(その5/6)「熱量を注ぎ込めるかどうか?」

その4から続く

熱量を注ぎ込めるかどうか?

 

小柳:家本さんはこれまで何回ぐらい事業を起こしたんですか。

家本:潰した会社は歴史から消えているのでwebには残っていないんですけど、作ってきた会社は15社あります。今は9つ残っていて、売却や清算をした会社が6つですね。特に海外は今だと中国はちゃんと利益を出して頑張っていますけど、シンガポール・韓国・台湾は進出して、最初うまくいっていたんですけど、途中でうまくいかなくなっちゃって。現地のパートナーに売却したり、自分たちで閉じてきたこともありましたね。

小柳:3年前に一回しか起業してない僕としては15社作っているってすごいなぁって思います。そこで聞きたいんですけど、色々浮かぶ中で「この事業をやろう」という判断基準ってどこに置いているんですか?

家本:15年ぐらい前と今はちょっと違いますね。

小柳:それはすごく聞きたいですね!

家本:今は自分がそこに熱量を注ぎ込めるかどうかですね。自分自身が「うわーっ」てやりにいけるかどうかっていうことが先で。「あとは誰かやっといて」とか「それで儲かるんだったらいいや」みたいな、そういう話は無いですね。やっぱり自分自身が1日24時間の中で、一定の熱力をガッと注ぎ込めるかどうかが重要。そして、どんな事業だったとしても、事業のモデルとして計算がそもそも成り立つかはもちろん大事です。

例えばシェアサイクルも、昔は中国もゴミの山のように自転車があって投資を受けた会社が全部潰れたというニュースが出て「儲からない」ってみんなに言われましたけど。そうじゃなくて、これぐらい一台の自転車が使われて、これぐらいのレベニューがあって、これぐらいの固定費でやれて、展開するエリアをしっかりと集中できたらいけるんじゃないかと。こういう算段が立つかどうかっていうのは裏側にありますね。

小柳:なるほど。算段を立てられるかどうか、ですか。

家本:昔はそうじゃなくてかっこ良く見えそうかどうかを気にしていました。これも皆さんの前だから申し上げますけど、アジアに広げて展開をしていくっていうことが、自分たちのこの事業のケイパビリティをそれでもって見せれるんじゃないかと考えていたんです。事業のケイパビリティって本来そうじゃないと思うんですけど、いろんなところでやっていることが「すごい」と思われるんじゃないかとか、そういう側面もあったんですよ。

小柳:それで判断してやっていた時期があるってことですか。

家本:ありましたね。でもやっぱり全部上手くいかなかったですね。

小柳:家本さんが今大切にされているのは「熱量をかけられるものに突っ込む」ということですね。

家本:そうですね。世の中で誰も思い付いていない事業のアイデアを考えるとか、そういうことは全くやっていないんですよ。むしろシェアサイクルは世界でもほぼ最後発だし、「バイチャリ」っていう自転車のお店もリユースの業界なんてそもそも日本にはもう充分あって。それこそ「メルカリ」とか「ヤフオク」とかオンラインが溢れているところで、リアルの店舗となると逆だと思うんですけど。でもそこで必要とされそうかどうか、算段が立つかどうかっていうのを見ながらも「やりたい」って思うかどうかですね。

小柳:すごいですよね。冒頭だけで全部自転車の話で終わってしまうんじゃないかというぐらい熱量を感じます!僕は「事業構想大学院」という社会人の大学のゼミを教授という名でやっているんですけど、全く新しい事業ってなかなか出てこないんですよね。出てきても「それは無理だろう」っていうもので。でも、その中で結局最後はその人がどれぐらい熱量を込めて「これやりたい」と言うかというところなのかなと。いろんな人の姿を何度も見ているので、今のお話、すごく納得できます。

家本:初めから考えていたことが最後まで行き着くなんて、ほとんどないじゃないですか。世の中の事業って起業家が考えたことが、そのまま10年後も同じプランかと言ったら全くそんなことはなくて。むしろ一ヶ月ごとに「こっちじゃない」って言いながら体をぐっと移せるかどうか、行動できるかどうかみたいなことってありますよね。

自転車の事業も、日本の自転車業界が疲弊しまくっていてやばいと思って始めたんです。2,600〜2,700億円の市場と言われていても日本の自転車屋さんは既に半分になっているし、ピーク時は1,100万台輸入していたのが今では700万台になっていて、日本の国内でほとんど自転車を作ってない状況で。

街中の自転車屋さんがほぼ儲からず利益も出ていなくて、大型店がどんどんチェーンを閉めていくっていう状況になり、日本の産業自体が自転車を支えきれなくなっちゃったんですよね。そういう社会的な課題を解決出来そうかどうかということも考えますね。

小柳:例えば途中で「やっぱり無理だな」と思うような局面も通ってこられたと思うんですけど、そういった時も熱量を大切にされているんですか。

家本:当然熱量が込められるかってことは大事ですけど、一方で算段は必要ですね。

小柳:算段も変わる時はあるんですか。

家本:最初はこの辺の計算式しか見えていなかったものが、だんだん「これとこれを組み合わせたらこうなるかもしれない」ということはあります。例えば、ご利用頂いている皆さんには大変申し訳ないんですけど、昔「チャリチャリ」は4円でやらせて頂いていたんですが今は6円でさせて頂いています。4円っていうのは、当時「メルカリ」さんの時代の経営判断として他のシェアサイクルの料金を下回らなきゃいけないということがあったんですけど、僕は価格の弾力性が必ずしもそこまで高くなくて、それより利便性の方が遥かに重要だと思ったんです。でもそもそも成り立たなかったらなくなっちゃうので、4円から6円に上げさせて頂きたいと心の中で思っていて。

で、裏話をすると「これぐらいの時期に値上げ発表をしにいきたいな」と考えていたちょうどその前に西鉄さんのバスが100円から150円に値上げするという話が出てきたんです。神風が吹いたと思いましたね。西鉄さんの後だったら僕らも言っていいかなと思って、6月ぐらいに公表予定だったのをを5月中旬ぐらいに早めて公表しました。

小柳:そんな裏話があったんですね!

家本:4円から6円で1.5倍なんですけど、売上を3%上げるだけでもすごくしんどいんですよ。どんな事業でも5%コストを改善するなんて、とてもじゃないですけど血だらけですよね。1.5倍の値上げがなかったら今こんなことを言っていられなかったと思います。

小柳:そこは算段をちゃんとつけれるかどうかということですよね。

家本:そうですね。見通しがつけれるかどうかですね。頭の中で見えてるかどうかが本当に重要で、それをちゃんと可視化しないといけないんですよね。

小柳:利便性が良くなることの方が、値上げ1.5倍になることよりも上回るだろうっていう思いがあったんですよね。

家本:そういうことです。例えば値上げしたら買うの辞めようかなと思うものって、当然あるじゃないですか。その値上げ幅だとどっちがいいかみたいな話なんですけど。もちろんこれが10円になりますと言われたら「それはさすがにあかんでしょう」って話だと思うんですけど、6円ぐらいだったら許容頂けるんじゃないかと。だから外に対してはすごく不安な表現をし続けていたんですが、値上げをさせていただいた初日も、翌日も3日経っても、むしろご利用が伸び続けていたんです。

僕の知ってる限りではウクライナにはあるんですけど、他だと1分単位のサービスはやっていないんですよね。基本的に商売を考えたら15分や30分単位にした方が良いわけで。

小柳:他はやっていないんですね!

家本:日本も各社みんな30分ですね。僕は3分でも5分でも便利に使えて「ちょっとの距離でもチャリチャリがあったら便利」と思って頂きたいなと思っているのでここは変えたくないですね。

小柳:やっぱり熱量が半端ないですね!ちなみに家本さんが失敗するってどういう時ですか。

家本:これは具体的な事例を話すと、例えば僕らは海外の事業だと中国以外は全撤退しているんですけど、事業を始める時に自分自身で乗り込んで行かなかったんですよね。シンガポールだけは自分で行って最初しばらくやっていましたけど、僕が学校教育で英語を勉強していなくて。シンガポールの会社を買収して初めて英語を勉強したんです。

小柳:中学校に50日ぐらいしか行っていなかったと仰ってましたからね…!

家本:そうなんですよ。高校生の時に大検を受けたんですけど、英語は当時選択科目だったから受けなかったんです。大学に入るとみんな英語がすごく出来るので無理だなと思ってドイツ語の授業を受けたら、英語でドイツ語を教えられて。もっと意味が分からなかったですね(笑)。
それぐらい英語が苦手だったんですけど、買収する時に現地の人とコミュニケーションが取れないから英語で話すんですが、やっぱり苦手意識がついちゃって。台湾や中国、韓国も同じなんですがだんだん行く頻度が減ってしまって。言葉の問題というよりも、自分自身がぐっと体が入っていなかったという感じがします。手を広げればいいってもんじゃないっていうのと、四六時中考えきれるかどうかですよね。僕「チャリチャリ」のことだと四六時中考えても飽きないわけですよ。楽しくて仕方ないから。

小柳:「ポートどこがいいかな」と思って歩かれているぐらいですからね!

家本:そうなんです。「こうやって変えたら変わるかもしれないなぁ」とか色々ずっと考え続けられるから。「飽きないこと」かどうかも大切なのかなと思います。

小柳:会社の中の新規事業もそういうことなんでしょうね。

家本:そうだと思いますよ。新規事業というとすごくキラキラした世界で「誰も考えてないことを考えてこい」と言われているような気がするんですけど、むしろその後のオペレーションをどれぐらいちゃんと磨き切れるかで、僕はそっちの方が重要だと思ってます。

小柳:なるほど。グッと自分で体を入れられるかどうかって、大事ですね。

>>最終回へ

 

その1へ

その2へ

その3へ

その4へ

 

LET'S SHARE

RANKING

INTRODUCTION

ABOUT
SAPIENS

生き抜くための知性を共有するプラットフォーム
SEEMORE
COMMUNITY

MAIL
MAGAZINE

メールマガジン「CLUB SAPIENS」をお届け
SEEMORE