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SAPIENS TALK Vol.07 家本賢太郎(6:最終回/6)「地域に根ざす」

>>その5からつづく

地域に根ざす

 

小柳:ちなみに家本さんは時代をどう見ているのか、どう読んでいるのかについてお聞きしたいんですが。

家本:この3年はあまり出来ていないんですけど、やっぱり世界を回り続けるということですかね。よく言われる「タイムマシン経営」は基本的にみんなが向くのは西側のアメリカやヨーロッパの国なんですよね。でも僕は逆にずっと中国に行き続けて、年の半分中国に居る生活をしてた時もありました。今は確かにまだギャップがあるけど、でも「逆タイムマシンもあるかもしれないよな」と思っていて。今では信じられませんけど、2005〜06年ぐらいは中国が日本からの投資を求めていたんですよ。でも2012年〜13年ぐらいになってくると、細かなサービスの品質の差はあるけど学ぶところも出てきてすごく面白いし「この人たちのスピードやばいな」って思い始めて。

で、2012年って尖閣諸島の問題があって、日本の各企業が中国から手を引いたんです。コロナどころの話じゃなくて飛行機に乗ったらお客さん3人のCAさん7人みたいなそんなフライトばっかりだった時代がありました。でも僕は「それでもここから学びたい」と思って、ひたすら中国に行き続けていました。

小柳:逆タイムマシンって面白いですね。「欧米で流行っているから何年後かに日本でも〜」みたいなのが普通の考え方ですよね。

家本:メガトレンドが何なのか考えるとかはもちろんあると思いますが、大きなメガトレンドなんてネットで検索したら出てくるぐらいなので、みんな知ってる話なんですよ。そんなのは知っておくべき基礎的な情報でしかなくて、それより普段自分たちで見ていないところに何があるかということがずっと気になって。

小柳:なるほど。家本さんって全国的なサーバーのような事業をやりながら、「チャリチャリ」というすごくローカルな事業をされているじゃないですか。その両方をやっている人ってなかなかいないですよね!

家本:こう言っていただくまで、自分の事業の性格が分かれているっていうイメージはなかったんですけど、僕の最近のキーワードは「地域に根ざす」っていう言葉なんですよ。例えばうちの自転車屋さんはチェーン展開しているので、全国いろんなところにあります。基本的にチェーン店だと同じ売り方でやってもらわなきゃいけないんですけど、売れる自転車も、街の環境も、求められていることも全然違うんです。

福岡は「アイランドアイ」というアイランドシティの中の商業施設に入っているんですけど、福岡どころか佐賀や熊本、大分から車で来て頂く方も結構いらっしゃって、すごく商圏が広いんです。一方で中目黒や秋葉原などの東京のお店なんかだと普通にどローカルで。でもチェーンでやるとなると同じオペレーションでやらなきゃいけなくて。

もちろんそれがいい全国的な事業も多分あると思うんです、ITの事業もそうですし。でもやっぱりその地域の歴史も違うんですよね。同じ事業のイメージがあってもそれぞれの地域に根ざしてやっていくって、みんな今まで実は見えていなかったんじゃないかなぁって。そこに自分たちは目を入れてやりたいなぁと思ってやっています。

小柳:本当に細かくやられていますもんね。西鉄さんもそうですし。

家本:それこそJR九州さんとも昨年末に「一緒にやりましょう」と声を掛けて頂いて「包括連携協定」を結びました。これも涙、涙でしたね。

小柳:福岡ではKBCさん(九州朝日放送さん)と資本提携を結ばれていると思うんですけど、他の局さんともやりたいというお話も以前されていましたよね。

家本:局さんによってはポートの場所がないという課題はあるんですけど、例えば名古屋では系列を超えて各局の皆さんに「チャリチャリ」を置いて頂いています。どこかの色だとか、系列だとかいう時代じゃないと僕は思っていて「街の単位で、みんなでやりましょう」という感じで。熊本もまさにそうなんです。「オール熊本」で「新しい方たち、100年の歴史がある方たち、みんなで一緒にやりましょう」って言ってやるとすごく上手くいった感じがしますね。

小柳:それを作れちゃっている家本さん、さすがですね!

家本:でも全国で100も200も同じことが出来るかと言ったら、そんなにたくさんの愛は注げないです。やっぱり愛が注げるのは限りがあると思うので。例えば熊本はもともと熊本城マラソンという大会に第一回の時からシステムで関わらせて頂いていて。僕も何度もフルマラソンを走っているんですが、みんながあたたかくて本当に街中のみんなでマラソンを応援してくれる、すごく良い大会なんです。でも熊本って「不便なんだよなぁ」「歩くのちょっと遠いんだよなぁ」という課題を感じていたりする中で思いがあるから愛を注げているんですよね。

小柳:実際に街を走ったりしているから「こういうところ不便でしょう」って言えるんですよね。この前あるインタビューを読んでいたら家本さんが「この本がきっかけなんだ」と仰っていたのが『「好き嫌い」と経営』という本で。僕も偶然読んでいたんですけど、著書の楠木さんってすごい方ですよね。

家本:まだお読みじゃない方がいらっしゃったら、ぜひ読んで頂きたいです。僕はこの本を読むまでスランプだったんですよ。自分で体はグッと入らないけど、儲かりそうだなと思う事業に色々手を出すわけなんですけど、やっぱり上手くいかなくて。「なんでだろう」って思っている時に、たまたま本屋さんで見つけて。「好き嫌いと経営」って、経営学の中からはみ出ちゃいそうな感じじゃないですか(笑)。でも「好きか好きじゃないかで、結果が見えている」ということを言われていて。「これだ」って思いましたね。もう本当に僕の人生が変わりました。

小柳:家本さんにとって好き嫌いを含めて「仕事」や「事業」ってなんですか?

家本:車椅子の時の話で申し上げましたけど「自分に与えられているお役目なんだなぁ」って思っています。事業を起こす上で色々ありました。上手くいくこともいかないこともたくさんあるし、でも社会の中で役に立っている仕事やいろんな仕組みが実はたくさんあって。それが僕や頑張ってくれている皆の役目なんだなぁと。あと「neuet」の中ではまだないんですけど「クララオンライン」のグループ全体で見ると結構社内結婚も多いんですよね。ここで出会って二人の人生が変わったんだとか、あとは仲間同士で起業した人もいます。僕がそこで何かをした事で、皆の人生が新しい道に進んで「幸せそうだな」と思えることもあって。つまり、それが僕の「お役目なんだなぁ」と。

小柳:そんな「お役目」にどうやったら出会えるんですかね?

家本:無理してどうこうってことでも、ひねり出そうってことでもなくて。結局「好きな事なんだっけ?」っていう素の部分に戻れるかどうかだと思います。絶対にそれぞれみんな好きなことがあるから、だからそれに正面から動くのが一番だと思うんですよね。

小柳:自分の好きなこと、ありますよね!僕も中学からやっていることは変わっていない気がしています(笑)!

 

自転車王になりたい〜愛されるサービスとは〜

小柳:ここからは会場にお越しいただいている方からの質問にお答えいただけますか?まず最初の質問は「1日24時間しかない中で、熱量をどう割り振っているのかをお聞きしたい」との事ですが、いかがですか?

家本:グッドクエスチョンですね!僕もまだ悩んでいるところなんですけど、事業を任せられる人を育てられるかどうかが大事かなと思っています。人に任せられる事業をちゃんと作れるかという点もあるんですけど、もちろんその中でもやりたい事はたくさんあるので突然行って皆に「こういうことやりたいけどね」って話す、そういう熱量は当然あります。

小柳:今大事なところに時間を注ぎ込む、そしてそれをちゃんと社員に説明して納得してもらう、ということですね。

家本:「説明が足りない」って言われますけどね(笑)。

小柳:「今後やろうと思っている事業があればお聞きしたいです」という質問もいただいていますが…!

家本:表現は稚拙なんですが「自転車王になりたい」と思っています。あまり言葉が上手くないので、僕の思いついた表現がそれだっただけなんですが(笑)。「日常の自転車はチャリチャリでいける」という規模になりたいですね。そうでない趣味嗜好の自転車はリユースの世界をもっと頑張りたいです。自転車のブレーキを作りたいとか、自転車のライトのブランドもやっているんですけど、日本は無灯火が多すぎるのでそれを解決するためにすごく良い品質でかっこいいライトを売りたいなとか。そういうのを含めて「自転車王になりたい」と表現しています。

小柳:「自転車王」、かっこいいじゃないですか^^。「家本さんが考える愛されるサービスの共通点や、愛されるサービスにしていくための方法や気持ちについて考えがあればお聞きしたいです」というご質問もいただいています。こちらについてはいかがでしょうか。

家本:愛の表現や伝わり方、感じ方って人によって様々だと思うんですよね。言葉で表現して伝わる人もいるし、態度や物っていう人もいるだろうし。「チャリチャリ」も同じで、パッと見て「可愛いな」と思う人もいれば「赤くて派手だな」と思う人もいらっしゃるかもしれない。でも多様にうつるかどうかの方が大事だなと思っていて。一面しか見えないと、その一面でもって愛を伝えないといけないんですけど、多分これはそんなに簡単なことではないんですよね。みんなの気持ちや感受性は本当に人それぞれなので。

僕はそれをいろんな側面から感じてもらえるか、多面性・多様性が伝わるかどうかという部分だなと感じています。僕たちのサービスの存在ってちょっと面白くて、ソフトとハードとリアル、この3つの存在のバランスが綺麗に取れている時に初めてみなさんに使って頂きやすいサービスになれるし、愛していただける存在の候補になれるかどうかなんだと思うんです。

例えばサドルも「昔の柔らかいものが良かった」と言う方もいれば「今の硬い方がいい」っていう方もいらっしゃいます。皆さんの感じ方って結構多様だと思うんですけど、でも「意味があってこうしている」ということを伝えられるかどうかだと思うんですよね。

小柳:なるほど。ずっとお聞きしていたい程、深いお話をありがとうございます!最後に、今から新しいことを始めようとしているみなさんにメッセージがあれば頂けますか。

家本:今この世代の起業家がやらなきゃいけないことは「地域に根ざしきるかどうか」だと思うんですよね。ビジネスの規模が大きければ正解とか、小さいとダメとか、それが商売の良し悪しではないと思っています。そういう中でチャンスだったりやれること、やるべきことってあるんじゃないかなと思っています。今日は僕の早口トークにお付き合いいただき、ありがとうございました(笑)。

小柳:90分あっという間でしたね!本当にありがとうございました。

 

【SAPIENS TALKを終えて】

家本さんと90分みっちりお話しした感想は、ずばり「気持ちいい」だった。

終始ニコニコしながら、楽しいことはもちろん、自分のつらい境遇の話も気持ちいいテンポで語られながら、しっかりと本質を教えてくれる・・みたいな印象。こう言う人が高校あたりの先生だったりすると、めっぽう事業やホームルームが楽しくなるのでは・・・そんなイメージでした。

数々の起業を経て、国境を超えた事業も手掛けなてきながら、今「地域に根ざす」事業に最も魅力を感じていると語られたのには、今の時代の大きなヒントが含まれているように感じました。地域ごとの特色や、それに伴う社会のニーズを的確に組み上げながら実装していく・・・そのチャレンジの繰り返しが楽しくて仕方がないという家本さんの笑顔は、まさに「ナチュラル・ボーン・アントレプレナー」なんだな〜とニヤニヤしながら、このアーカイブを読み直していました。

今回のお話で一番思ったのは、やはり「見にいく」「体験する」。それができる熱量をともなう事業をやろう!というところでした。

みんさん、いかがでしたでしょうか?
「チャリチャリ」どんどん使いましょう!

 

 

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